序章
蒼き宝玉、ディープブルー。
それは呪われし宝玉。
誰もが求め、欲するもの。
人の望みを叶え、永遠を約束するもの。
そして、この世で最も呪われた存在……。
遠い時代、三人の始まりの人は、それぞれの持つ不思議な力を使い、世界を創造した。それと同時に、世界の分身ともいえる蒼き宝玉を生み出した。森羅万象を統べし、有と無を司る輝石。それは始まりの人に更なる力を与え、いつしか彼らは神と呼ばれるようになった。彼らは各々の力を使い眷属を生み出した。
「創造する者」は、元素を司る八人の神を。
「刻む者」は、世界を見守り歴史を刻む傍観者を。
そして「管理する者」は、滅びと再生を司る神を生み出した。
十二人の神とその眷属、刻人の手により世界は穏やかに成長した。
それでも、硝子のような平和は長くは続かなかった。
神を敬い愛した人は、神の巨大な力を恐れてもいた。
いつしか人は、力を欲するようになった。
誰のものでもない、自身のための力を求めたのだ。
――蒼き宝玉を手にしたものは、永遠の命と神にも勝る力を手にする事が出来るだろう……。
許されないと知りながら、人は蒼き宝玉に手を出した。
それが、長く続いた平和の終わりと、未来永劫繰り返される戦争の始まり。
全ては宝玉の存在から始まった。
一時の力を得た人は、神に反旗を翻した。そして、神と人との争いは始まった。
戦争は、長く続いた。何が始まりなのか、神すらも忘れてしまうほど長く。
だが、戦争は一瞬の閃光と共に終局した。
名も無き破壊神が宝玉の力を解放して世界を滅ぼしたのだ。
分身ともいえる世界が己のせいで傷つき、宝玉は悲しみのあまり涙を流した。
涙の雫は地に弾け、四つの結晶となって飛び散った。
それから宝玉は光を失い、何の力も持たない石となった。
砕け散った涙の欠片は「グレンジェナ」と呼ばれ、不老を約束する命の輝石だと言われる。しかしその所在は、神と呼ばれる至高の一族にも、また人の目にも触れる事無く、いつしかその存在は忘れ去られていった。
深き眠りについた宝玉のみが、真実を知る。
偽りの物語は、真実を見出さずに語られる。真実はもう何処にも無い。
全ては、宝玉から始まった――。
◆◇◆◇◆
数千の時が流れ、歴史は再び巡る。
楽園より逃れ、地に堕ちた古代神。誰よりも聡明で気高き女神は許されざる大罪を犯した。
贖罪すらも許されない、愚かなるその行為。
誰もが彼女の行動を狂気と言う。
神と呼ばれる一族の最大の汚点を残した滅びと再生を司る女神は、決してしてはならぬと暗黙の了解があるはずのものに手を出した。
力を失った宝玉の秘密と共に、他の神々を裏切った。
神界一聡明な彼の者は、この世で最も重き罪を犯した。
蒼き宝玉を盗み出した、二人目の神……。